僕の実家は、地方のレコード屋さんだった。
町の商店街にある、大きなレコード屋。
小さな頃から、沢山のLPやシングルレコードに囲まれて、店の中を走り回って育った。
店の名前は、名曲堂。素敵な名前だと思わない?
だからだと思うんだけど、音楽の業界や、音楽の未来に対しては、自分はその世界の人間ではないけれど、何か親しみと思い入れのようなものを感じている。
今日は、そんな僕の音楽のお仕事の世界への思い出話をしようと思う。
あれは僕が3歳とか、4歳の頃のこと。
僕の実家は、町の商店街では「老舗」のレコード屋だから、町の市民ホールでコンサートやリサイタルがあるときには、即売に出かけた。
コンサート会場のロビーで、カセットテープやレコード、ポスターなんかを売るわけだ。
そんなときは、亡き父が幼稚園生の僕をスバルのワゴン車に乗せて、一緒に即売会場に向かう。
父は会場に付くとすぐに楽屋に行き、レコードにサインをしてもらう。
そうしたサイン付レコードは飛ぶように売れる、売れる。
まだ幼稚園の僕も
「いらっちゃいませ!いらっちゃいませ!」
とロビーで声を張り上げたあの頃、楽しかった。
楽屋で走り回ったあの頃、音楽の周辺がキラキラと輝き、来場する前の静けさ、開場したあとの来場者の期待高まる興奮の空気、そして終わったあとの高揚したお客さんたちの表情。
・・・勢いがあって、誰もが楽しみにしていて、すべてが眩しかった。
音楽が持つ力を体いっぱいで感じて、小さな僕はいつもワクワクしていた。
その2年後、ガンで父が他界。
元々レコード屋は叔父が中心となって経営していたので、自然と母も別の仕事につき、レコード屋は毎日通う場所ではなく、たまに行く親戚の家に変わっていった。
そうして、当然僕の前から生の音楽の世界との接触がなくなった。
その後、中学生になって、坂本龍一を知る。
幼なじみのマセた同級生がいて、そいつが好きだったから。
教授の音楽などまだ分かるはずもないのに、僕とそいつでレコードを聴きまくり、弾けもしないピアノを自己流で真似して、教授のインタビュー記事やラジオを集めまくった。
父を亡くしてから、周囲に憧れの男性がいなかったのだ。
そんな中、教授のラジオやインタビューで語られていることは、半分も理解できないけれど「こういう大人になりたい」という強い憧れであり、いつか一緒にいろんなことを話してみたい、唯一の大人だった。やがてそれは「大人になったら一緒に仕事をしたい人生の目標」へと変わる。
そして大人になった今、偶然にも(そして幸運にも)、教授の北米ツアーのロビーや、UTAUツアーに関係者として参加することができた。
そこには当時と変わらぬ空気が流れていた。
開場前の静けさ。ドアを開けた時のざわめき。終わったあとの高揚。
すべてが、あの頃のままだった。
僕は懐かしく安らぎを覚えると同時に、音楽が持つ力は時代で変化などしないということを知った。あるのは最初に触れ合うきっかけと仕組みが時代によって多いのか少ないのかだけなのだと。
人は常に音楽に何か言葉にならないものを求めていて、自分と寄り添う音楽を探している。
人は記憶を呼び覚ますときに音や匂いや風景がトリガーになる。
豊かな人生、豊かな日々は、素敵な体験をどれだけできるかだ。
そのひとつのきっかけを自分も作り出したい。
USTREAMの中継をやるということは、僕にとってそういうことだった。
小さい頃、僕をワクワクさせてくれた音楽。ライブ感。
それを、大人になった僕が手伝えるというのは、なんていうか・・・「音楽業界へのお礼をしたいなぁ」という感覚だった。
今、僕の元実家だったレコード屋は潰れてしまった。
でも看板はそのままに廃墟になっている。倒産してしまい、祖父も祖母も、叔父も叔母も、従兄弟も亡くなってしまった。建物は別の人のものになり、今ではあの中にあるものを取ることもできない。思い出深いあのレコードたちは、あの地下室にあった古い蓄音機は、どうなってしまったんだろう?
地元に帰る度、外からそっと眺める元名曲堂は寂しく、切ない。
今の時代、レコード屋という音楽と触れ合うきっかけは激減したけど、かわりにUSTREAMや新しいネット上のメディアがその役割を担えば良いと思う。
そこには新しい可能性が満ち溢れていて、まだ手つかずの雪原だ。
当時のレコード屋の奥には、父が始めた小さな喫茶スペースがあり、そこでは常連さんがコーヒーを飲みながら音楽鑑賞をしていた。そういうアイディアを出したのも、父だ。
父はビジネスだけを考えるのではなく、そういう「音楽をみんなで楽しむ」という空間づくりも好きだったようだ。
だから今後のパブリックヴューイングはそんな感じが素敵だと僕は思ってるし、新しい交流の場になるかも知れない。
実演・体験・共有の時代。すべてはこれからだ。
僕は、あの頃の思い出を抱きながら、新しい音楽の世界の、お手伝いをしたい。

