フォントデザイナー・インタビュー

意識しているのは、
書体に対してどういう感覚を
持つかということ

書体設計家
片岡朗

Akira Kataoka

1947年生まれ。東京都出身。レタリングデザイナーとして文字デザインの基礎を学び、その後広告代理店でアートディレクターとして活躍する。フリーになり、写真植字からDTPへの変革期を経験。広告の仕事をしながらフォントデザインを手がけるようになる。「丸明オールド」は発表前にサントリー・モルツの新聞広告で使用され、その今までにない形で反響を呼んだ。2005年「iroha gothic family」2007年「丸明朝体family」2009「丸丸gothicABC」発表。第2回石井賞三席、朝日広告賞入選、日経広告賞、雑誌広告賞、日本タイポグラフィー年鑑2010大賞など受賞多数。
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文字の表現の幅を広げてくれるフォント。同じ文章でも、フォントが異なると受ける印象が大きく違います。
普段何気なく使っているこのフォントが、実は人の手によりひとつひとつ作り出されたものだということを、
一体どれくらいの人が認識しているでしょうか。
今回は、BiNDのWebフォントに導入された書体「丸明シリーズ」の制作者である片岡朗さんに話をうかがいました。
1書体につき7000字以上という膨大な数の文字を、5年間かけてひとりで製作したという片岡さん。
一体そこにはどのような思いが込められているのでしょうか。

01書体作家になるまで

筆やポスターカラーを使った、
手書き全盛期に文字の基礎を学んだ。

片岡さんが文字の世界に入ったきっかけは何だったのでしょうか?

一番最初はアルバイトでやっていたレタリングです。当時は大学闘争などがあって、今後どうしようかと考えながらぶらぶらしていました。そしたら、「暇なら、ここでバイトでもしてきたらどうだ」と、父の知り合いのレタリング事務所を紹介されました。それがきっかけですね。昔は晴海辺りで年に何回か展示会が行われていて、そこで使う新商品の説明パネルなどを描いていました。当時、印刷するほどの枚数が必要でないものは、手書きで描いていたのです。もちろん最初からそれをやらせてもらえたわけではありません。まずはひらがなをひたすら書いて、あとはパネル貼りをやっていました。

それがなぜ、デザインに興味を持つようになったのですか?

そのレタリング事務所で3年くらい働いていたのですが、「ここに明朝体をこの大きさで」とか言われるがままに描いているうちに、疑問を感じるようになったのです。「ここはもっと大きくしたほうがいいのになぜしないのか」とか、デザイン的なことに対する疑問ですね。そういうことはデザインを知らなければできないんだろうと感じて、デザインもやっている会社に転職をしました。

片岡朗さん

片岡朗さん

Macで作成した丸明シリーズ以外にも、このように手書きによる原字を基にした書体設計も行なっている。手書きの味わいを生かしたフォント制作に適している。

そこではどのようなお仕事をされていたのでしょうか?

僕はレタリングができたので制作部に入ったのですが、アートディレクターが作って持って来たラフにタイトルを描いたりする日々でした。フォントには色々な種類があるということを、ここで学びましたね。アートディレクターのラフには色々なものがあって、今度は次第に「これすごいな、どうしてこうなったのだろう」という興味を持つようになりました。ある意味好奇心が強いのかもしれないですね。それでデザインを学ぶために、代理店にいくことにしました。代理店にはデザイナーとして18年間いたのですが、その間も文字のことは大変興味を持っていました。

その時はどのように文字作りに関わっていたのですか?

当時写研の石井賞っていう、タイプフェイスのコンテストがあって、それに応募しました。第1回のグランプリは、中村征宏さんのナールでしたね。第2回に応募したのですが、その時は三席に入ったのです。これは面白いと思って第3回にも応募したのですが、その時はかすりもしませんでした。そこで文字に関してのことは止まってしまったのです。

もう1度文字に関わろうと思ったのはどうしてだったのでしょうか?

代理店に勤めた後フリーになって、3年くらいたったときにバブルがはじけてしまいました。クライアントが、毎年1社くらいづつなくなっていったのです。仕事がなくなるのではなくて、クライアントそのものがなくなってしまう。それで少しあせって、結局自分は何だったのだろうなと考えるようになった。「自分にはまず文字があって、それでデザインをやって広告の世界でずっとやってきているんだな」と思い出したときに、手元に文字を作るのに便利なMacがあったのです。「これは文字を作るしかないだろう」と思いました。

片岡朗さん