書体のデザインのアイデアは、どのようなところから生まれるのでしょうか?
小さいときから見てきたもの、すべてですね。何となく頭の片隅にある美しい形の記憶、それを文字の中に再現していくんです。小学生の頃、夏休みは毎日のように蝉を採っていました。ただし、クマゼミは力強く捕まえるのが難しかった。クマゼミは頭部の幅が大きく、ちょっと下膨れな感じでのフォルムなんですが、そのイメージが、実は筑紫明朝の「り」になったんです。「り」を描くとき、自分の記憶の中にあるクマゼミのフォルムが浮かんできたんですね。そういったさまざまな記憶の片鱗から、文字のデザイン、特に仮名のデザインは生まれてきます。自分にとっての心地いいデザインなんですね。
明朝体のあと、ゴシック体を制作したわけですね。
筑紫ゴシックは筑紫明朝の骨格を使って制作しています。そういう作り方は、デジタルの時代の書体制作ではよくあるのですが、写植の時代では珍しいことでした。つまり明朝に近いゴシック体なんですね。筑紫ゴシックは世に広まるスピードは遅かったのですが、徐々に使われるようになってきています。